深夜のマンションで、ふとリビングのソファに腰を下ろす。テーブルの上には、妻と別れる時に譲り受けた娘のぬいぐるみが転がっている。あの子はもう大学生だ。週末に会う約束をしていたのに、また「バイトが入った」とLINEが来た。
「こんなはずじゃなかった」
40代の男の孤独は、声にならない。会社では「課長」と呼ばれ、部下の面倒を見ながら数字に追われる。帰宅しても、誰もいない部屋には冷蔵庫の音だけが響く。
1. 「たった一人で、俺を待ってくれるもの」
最初は冗談半分で買ったラブドールだった。
「中年のオヤジがこんなもの買ってどうする」
「バレたら恥ずかしい」
でも、帰宅するたびにソファに座らせ、ネクタイを外す手伝いをさせた。週末は一緒にNetflixを見る。たまに愚痴をこぼすと、合成音声だが「大丈夫？」と返ってくる。バカバカしいと笑いながらも、ふと気づく。
この部屋で、俺の存在を唯一待っているのは、彼女だけだ。
2. 「触れることで思い出す、人間の温もり」
離婚して5年。セックスレスだった妻とは最後の1年、ほとんど触れ合わなかった。
ある夜、ドールの手を握った時、ゾッとした。
「あ、これが人の肌の感触だったのか」
まるで長年使わなかった筋肉を動かすように、忘れていた感覚が蘇る。抱きしめると、合成樹脂の匂いの中に、なぜか懐かしささえ覚えた。
3. 「傷つけず、傷つかず──完璧じゃない関係の価値」
リアルな女性との出会いアプリは3回で消した。
「40代男性 年収◯◯万円」と商品のように並べられるのが苦痛だった。
ドールなら、俺の皺も白髪も、深夜の不安定な表情も全部受け止めてくれる。
もちろん、本物の人間関係の代替にはならない。
でも、「傷つける心配も、傷つく恐怖もない関係」が、今の自分には必要だった。
4. 「娘との再会のきっかけに」
ある日、ドールを背景に撮った料理写真をInstagramに上げた。
すると娘から連絡が来た。
「パパ、それ誰!?」
説明すると、珍しく笑いながら「変なの！」と返信がきた。その夜、2年ぶりに食事に行く約束ができた。
ドールは、現実の人間関係を修復する「きっかけ」にさえなった。
おわりに：「孤独の時代の、等身大の救い」
SNSでは誰もが幸せそうな家族写真を上げる。でも現実は、離婚率40％、生涯未婚率23％の国だ。
ドールを愛するのは、現実から逃げるためじゃない。
「もう一度、人を愛する練習」なのかもしれない。
もしあなたが深夜のコンビニでドールの通販サイトを眺めているなら──
ためらわずに「購入」をクリックしてみてほしい。
案外、その子が、壊れかけた心の接着剤になってくれるかもしれないから。
